ああ突破者たち

知識の独占は支配を生む

勉強こそ立身出世の道であるとして、子を持つ現代の親は大いにこれを推奨し、半ば無理矢理にでもやらせるものですが、昔は「身分違いのこと」「学校に行かせる金ないから勉強やめて手伝え」と言われできなかったり、もっと昔なら、学問はおろか文字を覚えることすら禁じられていた時代もありました。

なぜかといえば、その方が為政者や有力者に都合がいいからです。

自分達に都合の良いように、制度なり数字なり変えても、文字すら読めなければ、民は何が起こっているのか分かりません。ですので、支配者からすれば、民が余計な知恵をつけないほうが、与しやすかったのです。

フローグラップリングの弊害
現在の柔術界ですが、ご存知のようにFloGrapplingに加入していないと、IBJJFの最重要試合がほぼ全て観ることができません。これはもはや知識の独占で、観てる人と観ていない人では、全く話が合わないレベルで齟齬が出ると思います。

別にFloのやり方を批判しているのではありません。むしろ今までが大雑把過ぎたのであって、これが本来のビジネスというものでしょう。

ただ柔術のようなマイナースポーツの場合、知識が集約されすぎると、それ以外の場で同レベルの知識を得るのが、非常に困難になります。

その結果が招くものは、狭い共同体でのみ通用する文化、いわゆるガラパゴス化であると考えます。

これは柔術だけでなく、グラップリングも同じです。むしろグラップリングこそ、世界との乖離が一層存在する競技。

グラップリングの最高峰はADCCですが、現在の競技レベルを進歩させているのは2年に1回のADCCではなく、毎週のようにアメリカのどこかしらで行われているイベントです。
これらもFlo、もしくはファイトパス傘下がほとんどで、無料で中継が観れることは少ないです。

そしてファイトパス加入者でも、EBIを欠かさず観ている人というのは、日本でほとんどいないのではないでしょうか。

本間祐輔選手がノーギワールズ黒帯準優勝したり、中村K太郎選手がADCCベスト4、山田崇太郎選手がライアン・ホールを破る等、個の力では世界に通用した例がある限り、日本人が競技に向いてないということは無いと思うのです。

これは個人的な願望ですが、自分は格闘技ファンとして、日本人選手が世界で活躍する場面を観たいという欲求が非常に強いです。

ですので、ヒール有りルール、もしくはIBJJFルールという、世界で最もハイレベルで最も面白く、最も流通しているルールでの強さを求めています。

しかし国内は上記のような諸事情もあって、自分はやや閉塞感を感じています。

孤高の技術研究者
アベマTVの「格闘代理戦争」で、最高の味を出しつつ、世界共通言語としてのグラップリング技術には、絶対に妥協しないのが青木真也選手。

https://www.youtube.com/watch?v=bW_NbxSzgmc
この技術を、フックからのサドル&ダブルアタックを、こういう番組で出すの???

森修先生が代表をつとめるトライデント・ジム椿飛鳥選手との掛け合いがもう本当に最高なのですが、繰り出す技はガチアート。

ゲイリー・トーナンのバック取れる選手は世界に数少ないと思いますが、そんな選手が「これが世界標準なんだよ」と言わんばかりに、凄まじい技術を、サラリと当たり前のように見せる姿勢。

突破者の「普通」は、先行者の凄さ。そして強者の理由。

Histoire(s) du Japon Jiu-Jitsu
支配の方式としてもう一つポピュラーなのは、歴史の改竄です。歴史を都合よく書き換えれば、自分たちの支配を正統化できるため、どんな時代でも多かれ少なかれ行われてきた事です。

しかし、起きたことを「ありのまま伝えたい」という欲求は、人間根源的なものらしく、優れた歴史家の登場が古代から後を絶ちません。

ギリシャのヘロドトスから始まり、最古の客観歴史家トゥキディディス、キリストの処刑を伝えたタキトゥス、盟友李陵をかばって宮刑という苦しい罰を受けながらも、淡々と歴史を書き続けた司馬遷など、枚挙に暇がありません。

(トゥキディディス :BC460頃~BC395頃)

これらの歴史家は、時代毎のバイアスは当然含みながらも、驚くほど公平中立に歴史を著述しており、当時の状況をいきいきと後世に伝えています。

(タキトゥス :55頃~120頃)

彼らはときに、不義不忠とみなされる人間を、極めて批判的に描写することがあります。これは「筆誅」と呼ばれ、権力者達から非常に恐れられました。後の世、下手すると我々の世代まで悪評が残ったら、それは嫌ですよね。歴史を残すという行為の重さが、垣間見れる事例です。

(司馬遷 :BC145頃~BC87頃)

彼らもその重さを十分に承知しており、時には身を賭して、後世のために歴史を残し続けました。いまの柔術界でいえば、それは荒木さんではないでしょうか。

(荒木拓也  :1978~)

荒木さんが大量の公式戦を、「映像」という最強の証拠価値を誇る媒体で記録し続けていることは、想像を絶する貴重さ。

たとえば弟が「全日本マスター全階級に出場して、世界4冠王者になった」と言っても、映像が残っていなければ、もしかしたら信じる人がいるかもしれません(公式結果!公式結果!)。

しかし荒木さんが全てを記録しているおかげで、弟の野望は潰えます。

冗談はおいといて、何かを真剣にやっている人の成長ぶりが、ある一定の期間正確に記録されていることは非常にありがたいことで、その恩恵にあずかっている方も多いのではないでしょうか。

成長する戦略柔術家
もちろん自分もその1人で、選手の試合ぶりを細かい所まで確認することができます。

先日ご紹介した對馬進悟選手の、素晴らしい戦いも記録されているので、是非ご紹介させて下さい。

前日の愛知国際で、もはや戦友とも呼べるインパクトBJJのバトレ・キハラ選手に「レフ判」&「アドバン1差」の僅差で2連敗した對馬選手ですが、ここからが本領なのはみなさんご存じのとおり。

負けて強くなる典型の選手ともいうべき對馬選手、どのような戦略を立てて全日本マスターでのバトレ戦に臨んだのでしょうか?

ご本人の言葉と共にこの試合を振り返りたいと思います。

こういう駆け引きを楽しめるのも、戦上手なベテラン同士の醍醐味ですよね。

戦略公開
對馬進悟選手「振り返るとまったく自分らしい戦いをしていなかったという感じでした。何がしたいのか、客観的に見てもわからなく、時間を無駄に使うような戦況を延々と続けていて、何もせずに相手に先手を取られ続けた2連敗でした」

試合後にGSB加古さんとやりとりをする機会があり、『たぶん今日はここがよくなかったんだろう』と考えていた部分を指摘してもらい、自分だけでは消化できない部分を消化してもらえらので翌日のプランを明確に練ることが出来ました」

早速情報を消化して戦略を立てているのですね。それはどのようなものなのでしょうか?

「1.常に組んでいる時間を作る
※初日2試合ともに無駄に組まない時間が多かった

2.下から自分のゲームをする
※上下が曖昧になっていた

3.相手の対応の先を踏まえたガードワークをする
※過去の対戦でスイープした技を警戒していると感じた

この3つを意識して試合に臨みました。前日引き込みが曖昧になっていたので、素早く引き込んでガードへ入れて、自分のゲームをするように心がけました」

実際観てみましょう

両者ともに素晴らしい動き。

警戒されまくってるのに、狙って見事ハーフに引き込んだ對馬選手、フックゲームに入らないよう、とっさに遠い距離でハーフ上を作ったバトレ選手、さすが。

ガードの真上の方に入っていって、フックを作られると、ムリーロ・サンタナや金古一朗選手のような対フック兵器を持つ選手でない限り、大変不利となってしまいますからね。

このベテランの味が交錯するマンダムな旨み!!

そしてバトレ選手は外側遠距離からのパスを諦め、正面から潰す系のパスでアドバンを取ります。まさにホイラーvsエディのような、典型的なハーフガードのカタルシスが溜まっている状態!!!

そしてドカーーーーーン!!!!これこれ来た来た!!!!

「最後の最後に自分の最も得意とする形に入り、スイープするところまで行くことが出来たのですが、相手の逃げる動きをきちんと抑えることが出来ずアドバンどまりで負けてしまいました」

最後に返すというプランではなく、自分の形になったら即スイープするというプランではありましたが、なかなか簡単ではなく最後に自分の番になったのですが取り切れませんでした。試合から1週間経過しても、その時のことを思い出すと悔しさでいっぱいになります」

いやいや、すんばらしいムーブでした。まさにハーフガーダーの本懐!!

「今回の愛知遠征で学んだことは、インパクトBJJの方の諦めない気持ちというか、執念というか、ポイントは与えない・ポイントは取り切るという姿勢です」

「これは自分の試合の最後の攻防でもあった『スイープされかかっても諦めないで逃げる』という姿勢や、アサダ選手vs奥田選手の試合のカラードラッグの攻防でもあった、1回のアタックで諦めないで何度もアタックする姿勢など、ポイント取ること・与えないことへの気持ちが自分にはまだまだ足りないと痛感しました」

熱い熱い!!!ベテラン名選手がかかるまでやる!!諦めるまで防ぐ!!

「その部分を高める練習はどのようにすれば出来るかを考えています。今はキワの逃げる・抑えるという部分を身体に覚えさせるような練習をしてみようと思っています」

すでに針の穴を通すようなゲームメイクと、それを完成させ切る執念で勝利を重ねている戦略家が、ここまで謙虚に対戦相手や先行者の強みを吸収しようとする気持ち。

自分のような1ファンは、この先どんなになっちゃうのか楽しみで仕方ありません。

普通40台半ばで黒帯になったら、それでアガりでも全然おかしくないですよね。しかし對馬選手の貪欲な柔術知識欲はそれを拒否し、日々自身の芸術である「柔術」を完成させるため、全てを栄養にして取り込んでいます。

我々の考える「普通」を突破している人が見せた勝利への欲求に、蚊取空清を防ぐヒントを見た気がしました。

(蚊取空清自体は正直ちょっと欲しいです)